白い闇(26)
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この国は北部から南部にかけて幅が広くなる形である。離陸すると西海岸が目に入ったが、南下するに伴って海岸線は少しずつ遠くなった。最も機体は上昇しているので遠ざかる感じはそれほどでもなかった。水平飛行になるとアップルパイと紅茶が配られた。どちらもスーパーで売っているような袋入りとパックである。水平飛行は十分くらいで、降下が始まった。
地上が近づくと田園の中に住宅地が転々とちらばった。高速道路や鉄道線路を飛び越えてもうすぐ着陸と思ったとたん、エンジンの音が大きくなって機体は上昇した。「管制塔からの緊急の指示により着陸をやり直します」というアナウンスが操縦室からあり、客室に張り詰めた空気が漂った。空港の敷地が窓の下を流れ、左旋回が始まった。
高度500mくらいからLシティを見られるのはハプニングの賜物である。びっしり建物が並んだ市街地、そして緑に囲まれた王宮が目に入った。皇太子は空軍に五年勤務したのちに退職し、五年前に王位を継承した。十五年前に国営放送のアナウンサーと結婚して子供は二男一女である。
官庁街、国会議事堂、テレビタワーを見ながらもう一度左に旋回して南北方向の滑走路に北からの進入を開始した。滑走路はターミナルをはさむように二本の4000mが並び、斜めに3000mが交差する形である。ターミナルビルの端っこに着いて長い通路を動く歩道で移動して地下鉄の駅にたどり着いた。
前回はベッドと朝食だけという簡素な宿だったが、今回は都心に近いビジネス向けのホテルを手配した。こちらも三泊という予定である。空港からは地下鉄一本で、王宮の下からさらに東へと行くところだった。空港から地下鉄で三十分、改札を出て地上に出るとすぐの十階建てである。
八階の部屋は西向きになっていて遠くに中央駅が見えた。隣のF国に向かう列車が発着するホームの屋根があり、赤レンガの駅ビル、その向こうは首相官邸と王宮である。突然頭上からプロペラ機の音が降って来た。このホテルから南に五キロのところにはLシティの最初の空港があった。
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