下り坂(185)
前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m
セレモニーが済むと社長は本社に向かい、後は哲也が応対することになった。MRJの整備を担当するM重工の子会社からは平田が来ていた。A空輸に納入した八機のうち、本体で使うことになるのは、羽田と八丈島を結ぶ路線の三機のみである。あとはS航空による運航ということになった。
「ひとつお尋ねしますが、J航空で使用する機体もなさるんですよね」
九州のA放送の記者が平田に尋ねた。J航空には前年の夏に一号機が納入され、四機が伊丹をベースに東北へ飛んだ。
「春以降、福岡の路線にも入る見込みです」
「つまりA空輸とS航空の競合と。あっこれは岡部さんのほうですね」
「松山や高知は今のところ予定はありません」
哲也は競合関係を否定した。そうなる路線は宮崎・伊丹のみである。部品の共通化によるコストのメリットは両社にとっても有益だった。
平田と哲也は第二ターミナルで昼食をすることにした。駐機場を見ながらの店はJ航空の系列だが、それは気にしないことにした。目の前の八番スポットに入っているのはA空輸の787の胴長タイプである。777よりもこちらが使われることが心なしか増えていた。それが日本経済の縮小の反映であることも気がかりだった。小倉と博多の間を走る電車も各駅停車は以前に比べて連結が減っていた。
「テツは一人で老後どうするんだ」
「まぁ、種の保存というのがもう・・・」
「俺も子供なし夫婦、どっちが先に・・・というところ」
「女性が残されたほうがパラダイスらしいねぇ」
「全くもう。でも若いメスが回りにいれば幸せと思っているんじゃないの」
「それもあるかもね」
「S航空にはずっといることになるの」
「まぁ、A空輸に戻る道はない」
今は執行役員だが、取締役に上がれるかどうかは会社の業績次第である。大きな事故があればエアラインでのキャリアは終了、取締役になれたとしても社長はたぶんA空輸から誰かが下りてくるはずである。
| 固定リンク
コメント