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2016年5月12日 (木)

下り坂(170)

前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m

 Kの試合が始まった。相手は四段審査を意識して最初の一撃は面でと思い定めている気配がした。互いに面へ両者が体当たりしたところからKが引き胴を放ち、ブロックされた。間合いが開いて追い込み面に出ようとしたのをKが小手を決めて一本先行した。二本目はKの面攻撃に対して抜き胴に行ったが、待ってから打ったために元打ちとなり、振り向きざまに飛び込んだ第二波の面に旗が上がった。

「つい相手が来るのを待ってしまったなぁ」

 Kの相手は面をはずすと苦笑いした。Kの娘は喜び露わという状態である。ベスト8に絞り込む試合が進んで、哲也とKの試合が回ってきた。

 蹲踞から立ち上がるとKは反時計周りに旋回した。哲也は竹刀の先端に意識を集め、鎬で抑えるようにして攻撃の機会をうかがう素振りを見せた。まともに会い面勝負をすると負けると読んで、相手を誘い出す戦術である。剣先への意識を手元近くに移した瞬間、Kが打つ機会とばかりに面を打ってきた。哲也は右前方に踏み込んだ。Kの着けたかなり使い込まれた黒い胴をなで斬りにして振り向くと反撃されないように身構えた。主審の「胴あり」という声が聞こえた。

 Kの反撃は小手・面だったが、それはしのいだ。間合いを極端につめてみたり、払い技を仕掛けてきたりするのを哲也は冷静に処理した。このまま時間切れという老獪な戦略だったが、裏から竹刀を抑えながら飛び込んできた面を受け止めた直後、右脇腹に一撃を浴びた。しまったと思ったが、足は動かなかった。審判の一人が旗を交差させて振っていたものの、ほかの二人が揚げているので、合わせた。

 延長で哲也はかつぎ技を試みた。左肩に竹刀をかついで相手の反応次第で面か胴に切り込む戦術である。技を仕掛けた瞬間、右手首に衝撃を受けた。それはあまりにもショックの大きい負け方である。

 八人から四人に絞るところでKは哲也より一回り下の午年と戦った。こちらは四段を持っていたが、まだ中学生の剣道の勢いが残っているKの引き胴を食い止めることはできなかった。準決勝ではさらに年齢の近い者に小手から胴へ変化する業で勝ち、決勝で当たったのが、三十歳になったばかりの中学教員である。向こうには中学生軍団のサポーターがついた。

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