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2016年4月 2日 (土)

白い闇

架空の国への留学記ということで 乗り物オタク丸出しはご容赦を

 大学院で都市行政論を選考していた私は、B国のO大学に一年間留学することになった。O市は南北に約千キロある国土の北に位置し、石炭に始まって製鉄・造船が盛んとなり、近年はエレクトラにクスなどに転換を図っている都市である。九月も終わりに近づいて台風の接近が心配される中、私はB国の植民地だったところを中継して渡航した。

 300人程度の定員の双発ジェット機は三人がけのシートが二本の通路をはさんで三列に並んでいた。私の席は胴体の後ろでくびれかけ、二人がけになった左窓際である。機内は窓側と真ん中の通路側二人が埋まった程度であった。生まれ育った街の姿が窓の下に遠ざかり、海の上に出ると十機に台風の渦となる雲が連なっていた。

 朝十時過ぎに出発して中継地に着いたのが現地の午後三時半である。乗り継ぎでB国の首都Lシティに向かう便は午後十一時半の出発だった。疲れを癒すため、空港内のマッサージ店に入ったり、ターミナルビル屋上のカフェで軽食を取りながら行きかう飛行機を眺めた。4000m滑走路三本がビルを囲むように配置されていた。

 駐機場には各地のエアラインの機体が翼を休めていた。ここは国内線が存在しない点のような国なので、フラッグキャリアは専ら中継輸送に徹していた。Lシティ行きの機体はエンジンが四つある大型機で横縦列の座席は満席だった。私の座席は真ん中四列の右通路側だった。左の三人は幼い娘を連れた三人家族だが、私の隣には亭主がブロックするように座っていた。

 離陸してすぐに夜食が出てそれから睡眠時間である。十時間のフライトの終わりが近づいて食事が出た。Lシティに着くのは朝六時過ぎである。母国にいる時と体内時計は大きく狂わずに現地時間に溶け込めそうだった。前の座席の背もたれに埋め込まれたモニターはB国の南端の海岸線に差し掛かった飛行機の位置を示していた。

 前方スクリーンに映し出されたのは雲の海だった。その中に飛行機はゆっくり沈み込んだ。Lシティは海岸線から100キロほど内陸に入り込んだところにあり、霧が立ち込めることが多かった。窓のほうに視線を向けると外は真っ白で何も見えなかった。モニターの表示は空港周辺にいるというところでストップした。

 白一色だった前方スクリーンに大地らしき緑と着陸誘導の灯りが映し出された。いよいよだなと私は両足を踏ん張って身構えた。軽い設置音に続いてエンジンの轟音が変わった。誘導路に入った機体は並んだジェット機の間を抜けてターミナルビルの前でストップした。時計を見ると午前六時十三分である。

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