白い闇(7)
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西側の鐘楼は立ち入り禁止区域だが、東側の鐘楼には登れるので、らせん階段で上がった。まず南側の景色が目に入った。市庁舎越しに陶磁器工場、その右は集合住宅、さらに右手が紡績工場の跡に作られたエレクトロニクス関係の工場である。自動車専用道の向こうも市街地となっていて10キロ近くくらい先に標高100メートル前後の丘が連なった。
川とモノレールの無効も市街地で、キャンパスのドミトリーが遠くに見えた。東は遠くに軍の装備品関係の工場があった。モノレールは川をカーブしながら渡りO駅の五階建てのホテルを兼ねた駅舎の西が起終点である。「国鉄」の線路は南東側に向かうのが首都方向、東北東へ10キロのM港が枝分かれした線の終点である。
O駅から運転席の下だけがクリーム色の四両編成の真っ赤な電車が出てきた。西に20キロ走ったORがO市の西端で、ここから南に炭鉱地帯への路線が分かれた。そこから西北西に50キロでH市、北に向きを変えて80キロ行くと終点のT市である。ガイドが線路の手前にあるアーチが連なった石橋が最初の線路だったと解説した。
300年くらい前、城の北側のすぐ下が海岸線だった。鉄道は波打ち際に敷かれた。すぐ下に見える赤レンガの二階建ては鉄道会社の本社として作られ、後にホテルに転用されて七カ国首脳会議の時はF国大統領の宿舎となった。線路は次第に海側へと広げられ、鉄道工場への引き込み線と旅客・貨物用の複々線が並んだ。
西側の鐘楼ごしに鉄道車両の工場があった。A国の大統領が列車好きならずっと滞在したくなるに違いないという風景である。三キロくらい先に白い構造物が見え、それは昔の溶鉱炉を記念に残したものだと説明された。最盛期には八基が稼動していたO市の鉄鋼業は現在は二基だけである。七代前の国王は鉄鋼業に関心が深く、夏を過ごす城がコークスの匂いに包まれても意に介さなかったとガイドは付け加えた。
正面に広がる海は対岸が20キロで、左に行くにつれて近づいてくる地形である。O駅の海側にある高さ十五階のホテルの向こうには大きな真っ白い客船の姿があった。そして真正面の倉庫群の向こうに見えるのが、原子力空母である。長さ300メートル、排水量7万2000トン、戦闘爆撃機・電子偵察機・ヘリコプターなどを64機搭載できるそうである。この城が今でも要塞であることが実感できた。
鐘楼を下りてかつての砦の端を覆うように作られた建物の中を歩いて出口に向かった。壁には無数の拳銃・小銃・刀剣が飾り付けられ、昔は沖に現れる敵船に備えたであろう大砲が並んでいた。「立ち入り禁止」の札があるところで私たちは出口への階段を下りた。
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