下り坂(167)
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中学生の終わりの礼の後、高校生が整列した。中田の長男は最前列の左から二番目副キャプテンの位置である。キャプテンを務めるのは小学校時代からの経験者で中学でもキャプテンだった。 高校生の基本稽古も中学生と同じだった。大学生二人も今度はその仲に加わった。
哲也は面を着けるとまず女子のキャプテンと竹刀を交えた。大学生は再び元に立った。中田は哲也の列の三番目である。三分程度やってから二人目と交代した。こちらは一年生の男子で最初は面に対して胴を抜いた。何本か打ち合う形になってから最後に飛び込み胴をされて交代した。
中田と前にやったときは最初の面に対して胴で応じたが、今度は小手を押さえた。今度は小手・面で入ってきて哲也は受け止めた直後の引き面を浴びた。それから面に対して胴を抜き、故意に左脇を甘くしたら逆胴を食らった。哲也は「ラスト一本」と言って間合いに入ると出鼻の面をやられた。
そのあとは中学生も含めて十七・八人と稽古した。午後五時に終わりの礼をして一言コメントということで吉田松陰が山田顕義に与えた扇子の言葉を引用した。哲也の道具や道着を一年生が袋に入れるのを中田が近くで見ていたので哲也は大学はどこを目指すのかと尋ねた。
「工学部を考えています」
「機械関係かな」
この日の哲也はA空輸のゼッケンを着けていた。中田がi商事の機械カンパニーで航空部門から鉄道部門に異動して海外への地下鉄や新交通システムの売り込みにかかわっていると知ったのは六月のK高校同窓会である。同期の肩書きも課長、次長というところになっていた。
「航空関係ですが・・・これでも分野いろいろですね」
「エンジン系とか機体の設計とかで違うから。大学の先は考えているの」
「航空工学をやると自動車や電車にも応用が利くと思うので」
「数学や理科には自信あるよね」
彼は「大丈夫です」と答えた。それなら大丈夫だろうと哲也は思った。航空工学に行った平田も理数系の科目は強かった。彼がM重工で小型ジェット機の開発に関わっているのは聞いたが、初飛行がなかなかできないのが心配である。A空輸は二年後に一号機を受領する予定だった。
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