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2015年9月 5日 (土)

日比谷百景(4)

前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m

 磯崎副長と向かい合わせに座る古賀課長補佐は入社十八年目である。長崎市が故郷で、N大学の経済学部、最初の配属は長崎支社とずっとそこで過ごした。大井の契約部、青森支社、次の太井は保険金部、和歌山支社を経て決定グループに来た。課長昇進時期に来ていたが、彼をどのような形で送り出すかが問題である。

 次長の前の六人の筆頭は山田副長である。彼女は私より一年先に入社したが、短大卒なので年は私が上という微妙な位置関係だった。結婚相手も同じ姓で、子供は二人いた。ずっと契約部で、決定グループを事実上仕切っていた。副長になったのは五年前で、川村の一挙手一投足を監視した。

 他に川村を監視するのは、38歳の寺岡、32歳の村松、29歳の寺山、26歳の武藤に25歳の寺島である。武藤・寺島の二人は独身でとりわけ監視が厳しかった。それは大田に対するものとは比較にならないほどである。大田が人間の女性よりも電車を愛しているということはとっくに見抜かれていた。

 火曜日の朝は朝礼が行われるが、それ以外はやらなかった。九時になると決定用の端末に電源を入れた。社員番号とパスワードを入れると一分ほどで申し込み番号に基づいて契約内容を表示する画面が出た。入社当時から進歩したのは既存の契約書類の画像を呼び出せるということだった。

 副長以下は中間決定と五千万円以下の最終決定。課長は一億円以上の最終決定と支社からの陳情による決定変更、三億円以上は部長決済ということになっていた。中間決定は調査を指示するものだが、医務グループからは「再診断」「レントゲン」「血液検査」「心電図」といったものが出された。

 業務開始から一時間くらいして支社対応グループが「健康診断書」を持ってきた。以前は一日平均2000件だったが、少子高齢化ということが影響して1500件くらいに減っていた。診断書には申し込み書類と同じコード番号が割り当てられた。これが違ってしまうと処理に手間取ることになった。

 決定グループが行う診断書のチェックポイントは二つ、職業欄と血圧・尿検査である。職業コードを記入し、血圧・尿が正常、特記事項がなければ判子を押して決定用端末で申し込み内容と付き合わせた。まったく問題がないとわかればそこで契約成立という決定を入れることになった。

 問題のある診断書は医務グループ行きである。そして職業も正社員でない場合は調査の対象という中間決定を出した。以前は男性のフリーターは契約しないという原則だったが、社会状況が変わってそうは言っておられないとなった。もちろん支社からの「強い要請」というのは必要である。

 

 

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