下り坂(161)
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哲也たちの試合は六番目だった。五番目の戦いはJRグループの一つと物流関係である。前評判の高いJRが五対ゼロで圧勝していた。開会式が九時半で試合開始が十時、試合が始まったのは十一時半である。
試合時間は五分だった。先鋒は互いに激しい動きで始まったが、二分過ぎると互いにじっくり相手を見据えながらの落ち着いた戦いになった。四分過ぎあたりで勝負に出たのは味方のほうで、面に対する小手で先手を取られ、そのまま終了した。
Mの相手は少し守りに入ったような感じである。試合中盤にMが小手からの連続を仕掛けた。相手の手元が浮いたのでMは胴に切り込んだ。快音と同時に三本の旗が一斉に上げられた。哲也たちは拍手で祝福した。
相手が取り返そうと「二本目」の号令と同時に面に飛んできた。落ち着いた雰囲気で構えていたMはすれ違いざまに胴を抜いた。これも小気味よい音に続いて旗が三本上がった。本数差では逆転である。
そのあとが残念だった。中堅は二分で面と小手を奪われて勝者数で逆転、副将は面を弐本浴びてA空輸の負けが決まった。ここは自分の剣道を全て出して勝負だなと思いながら哲也は進み出た。
竹刀を抜き合わせて立ち上がると相手はスッと上段に構えかけた。哲也が突くぞという素振りを見せると中段に構え直した。昔は上段をやっていたのかなと哲也は思った。小段審査を意識しているのか、相手は面中心に組み立ててきた。
哲也は自分の間合いが近すぎることに気づいた。向こうもそれに気づいて遠くからにしようとしきりに左右に展開していた。相手の小手に対して面を返したのも近すぎて哲也は引き面で間を開けた。
互いに中段に戻した直後、相手が面に来た。哲也は中高生からの面攻撃と同じように抜き胴に行った。相手の面が遅ければ竹刀を受け止める返し胴になるがやはり抜くほうが胴を捕らえたときに甲高い音がたてやすかった。
残り時間を気持ちの集中で何とか乗り切って最後の整列となった。終わると用意された弁当を食べ、あとの試合を観戦した。優勝したのは哲也たちの一つ前に入っていたJRのチームである。準優勝はN通運だった。
閉会式のあとはイタリアンレストランで「反省会」ということになった。副将は翌日に乗務が控えているので白ワインではなく、オレンジジュースでの乾杯である。羽田・札幌を往復してから羽田・福岡、そしてもう一度羽田から札幌を往復するというハードなものだった。
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