下り坂(162)
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最初にMへの結婚祝いの言葉が部長から述べられた。部長は剣道経験はなく、グループ企業全体の広報担当部長でもある。監督は唯一二本勝ちを納めたことを称えた。
「S航空に移るという話が来たらどうする」
監督が鉄也のグラスにワインを注ぎながら尋ねた。北九州を本社にしたS航空は、社長がA空輸のОBになっていた。北九州と福岡から羽田を結ぶ便に加えて山口宇部を共同運航するのが十月から始まった。一日六往復のうち半分ずつという状況である。
「お受けする心積もりでいます」
運航や整備ではなく、営業や広報だろうなと思っていた。時折、航空関係の雑誌に記事を寄稿していたが、それは地方にいても出来ることだった。鉄也の関心事は運航開始から十六年を迎えたスカイドリームである。380をキャンセルしてエアバスとトラブルになっていてどこと提携するのかという問題が沸きあがっていた。
「北九州なら故郷だからちょうどいいですよね」
部長も話しに入ってきた。もしかすると匂わされているのかなと感じた。それから787の今後の見通しや円安による訪日外国人観光客の増加などの話をしながら、パスタやピッツァ、ドルチェへと進んだ。
「結婚相手とはどうやって知り合ったんだ」
哲也は席を移ってMに尋ねた。
「高校の後輩とOBの合同稽古に出ていてです」
「そういう方法もあったんだなぁ」
「正月はあちらで稽古初めですか」
「そんなところかな」
哲也は苦笑した。結局、同期やすぐ下の女子とは疎遠な状態のままである。現役の状況を知らせる案内では地区予選を男子団体と個人、女子個人は一位通過、女子団体も県大会出場である。一年生の女の子が増えたということで哲也は帰省を楽しみにしていた。
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