もう少し・・・時が(3)
前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m
「今夜は空いてるかい」
午後五時にフロアへ戻ると有楽町のカウンターにいる同期の坂本が電話をかけてきた。彼とは新人研修で同じチームだった。
「一段落ついた。何時にどこで待ち合わせする」
「七時にそっちの入り口というのは」
「OK」
坂本は二年前に結婚して船橋に住んでいた。出産を控えた妻は実家に帰ったため彼は独身状態に戻った。
「週末はどうしてる」
銀座の方向へ歩きながら坂本が尋ねた。
「土曜日の夜に剣道の稽古をやっている」
隆は小学校から大学まで竹刀を握り、三段を持っていた。就職してやめたものの、東京へ転勤してから再び週一回やるようになった。
「剣道か。俺も中学までやっていたけど、今は夏ゴルフで冬はスキー」
「金と時間を食いそうだな」
「福岡へは年何回帰っているんだ」
「三回から四回くらい。来月は昔の友人の結婚式に出る」
50%オフで予約変更や購入制限のない社員割引は年二往復までしか使えなかった。今回は新郎負担で航空券の代金をもらうことになっていた。スケジュールは金曜の夜に出発して日曜の夜に帰ることにしたので、会社に内緒でA空輸の往復型事前購入割引を買おうとしたが売り切れていた。結局自社の二十八日前を買ったが、正規運賃との差額の一部は金一封で還元するつもりである。
「ご自分の結婚式の予定は」
「きつい質問するねぇ」
福岡に帰るたびに見合いの話が持ち込まれ、十人を超える人と会った。最初の頃は気が進まなくて隆のほうからやめたこともあるが、三十歳になって多少焦りを感じ始めた。
「社内にはこれという人いないの」
「だめだよ。みんなお嬢様で家の格が違う」
隆の父はF大学で民法を教えていた。五つ下の妹はI百貨店に勤めていて、こちらも見合い話が出始めた。
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