もう少し・・・時が(6)
前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m
「アイデンティティということか」
「また竹刀握るようになったのもそんな気がする。秋にまた四段チャレンジしようと思うけど、呼んだんだと指導者だからね。日本の伝統文化の一つを次の世代に伝えるということに生きる意味を見つけようと思ってる」
「次の世代を作るのも大事な仕事だろ」
「きついこと言うねえ。たとえ日本という国が無くなっても文化が残っていたらそれを伝える相手は外国人でもかまわない」
「ところで、またチャレンジと言ってたけど、失敗したんか」
「二回落ちた。三段までは一発だったけど、いやあ四段からは厳しい。でも、今度は三度目の正直にするよ」
「二度あることは・・・・・・となったりして」
中華料理の場合はビールの後に紹興酒というパターンが多かったが、隆たちはビールだけで切り上げた。店を出ると小雨が降っていた。
「今年の梅雨もあまり降らないな」
坂本が折りたたみ傘を広げながらつぶやいた。隆は小学校最後の年に水不足を経験したのでダムの貯水には関心があった。
「地震とかに備えて水を溜めたりしてる」
「いや。全く」
「俺はペットボトル三十本ほど置いてる。飲料は危ないけど、下着洗ったりする程度には使えるだろう」
「地震になったら風呂どころじゃないらしいよ。じゃあ俺はここで」
坂本は東京国際フォーラムの脇を通って京葉線東京駅へ向かうつもりである。一人になった隆は京浜東北線の電車に乗り込んだ。大井町で降りると雨足は急に強くなった。朝食のストックがなくなっていたのを思い出したので、コンビニエンスストアで食パンとアップルジュースを買った。
| 固定リンク
コメント