もう少し・・・時が(5)
前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m
「そうすると、一ヶ月くらいしたらにぎやかになりそうだな」
「どうかな。あっちの親がしばらく手元に置いてほしいと言い出したりして」
「ベビー用品とかは援助してもらうんか」
「そうだな。独身の時は自由に使える金が多かったのにすっかり減ってしまった。結婚したら年に何度も福岡へ行くことはできないよ」
「家族三人となったらとんでもない出費だもんな。夏は盆を避けて山笠の頃を狙うけど、正月はどうしようもない」
「逆に両親を東京へ呼び寄せたほうがいいかもしれないよ」
新しい運賃制度ではピーク期に割引を利用することが全くできなくなったが、逆方向の場合と早朝に限って割引が利用できる余地が残った。
「その時にはどうなってるだろ」
隆は天井を見上げた。
「海外勤務の希望はしてる」
「もうやらなくなった」
会社では毎年自己申告表を提出させられた。入社当初は今後やりたい仕事として海外支店勤務を書いていた。大学で国際法を専攻した隆は外国でも仕事ができるという期待からJ航空を選んだ。
「そうしたら今度はニューヨークへ行けとなったりして」
「どうかな。国内を固める時代だからなあ」
関西国際空港が出来てから、今まで手薄だった大阪と九州各地を結ぶ路線が次々にできた。ここは今までA空輸が押さえていた。
「海外支店は現地の人とか留学経験のある人に任せるとなるかも」
「坂本はもし海外勤務となったら家族を連れて赴任するか」
「そのつもり。海外の空気を吸って育つチャンスをみすみす逃す手はない」
隣のテーブルから煙草の煙が流れてきた。ノンスモーカーの隆にはちょっと不愉快だった。J航空では飛行時間が二時間以内の便は全て禁煙である。
「海外で育っても自分が日本人であるという意識はなくさないようにしないといけないと思うな」
「コスモポリタンにはなれない」
「俺は無理と思う。日米航空交渉とかアトランタオリンピック見てたら自分が日本人であると意識するだろう」
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