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2014年9月22日 (月)

もう少し・・・時が

東京に住んでいた頃にワープロで作成したものを タイトルは「もう少し時が緩やかであったなら・・・・・・」 完全に「愛しき日々」からの 長いので短く直しました

「情報システム部からのお願い 新本社ビル移転にあたっては、ワープロ専用機等の旧式OA機器はできるだけ処分願います」

 J航空広報室に勤める隆は回覧に目を通すと捺印した。新しい本社ビルでは回覧は電子メールで行われることになっていた。出張・休暇・会議室使用の各種申請や来客の受付、出退勤もパソコンによって管理されるそうである。

「捨てろと言われてもねぇ」

 ワープロを打っていた室長がつぶやいた。学者肌の室長は航空輸送に関する著作や翻訳があり、交通関係の雑誌に時折寄稿していた。

「一台くらいは残してもいいんでしょう」

 室長より二歳年上の調査役が相槌を打った。隆はパソコンの席へ移動して外部にリリースする情報のインプットを始めた。七年前に入社して大阪支社へ配属された頃はF社のワープロを使った。それまではワープロに触ったこともなかった。三年前に今の部署へ移ったが、文書によってワープロ専用機とパソコンの一太郎を使い分けた。新本社ではウィンドウズのワードをワープロとして使うように推奨された。

「今まで作った文書フロッピーが使えなくなるのが一番つらいんだよね。5インチが3.5インチに変わった時は文書複写をやって切り抜けたものだが」

「また本の改訂やるとしたら、前のフロッピーをベースにするんでしょ」

「もちろん、運賃の部分なんか新しい状況に合わせて今書き進めてますよ」

 室長はどこかの大学にポストが見つかれば早期退職制度を利用するつもりである。大学で交通論を教えている会社のOBは隆が知っているだけで四、五人いた。

「それにしても変化の激しい時代になりましたなぁ」

「パソコンはキーボードじゃなくて、何だったかな。手で転がすの」

 室長が隆のほうに声をかけてきた。

「マウスです。操作の感覚がちょっと違います」

「若い人はまだしも、年寄りには新しい機械覚えるのはつらいですな。古いものは残してほしいけれど、新しいものが出るサイクルが早くなって困りますな」と調査役が言った。

「運航乗務員だって年配の人はこれから苦労しますよ。古いタイプのジャンボやDCー10は今世紀中にラインからなくなりますから」

「一部はA航空に移すんだろ」

 A航空は台湾路線を運航するために作られたJ航空の子会社である。機材も乗員もJ航空から送られた。

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