もう少し・・・時が(9)
前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m
五分間の休憩の後、地稽古となった。隆は一番端で元に立った。吉崎が隣、そしてもっと年が上のОBという具合である。女子部員は年配のほうにという不文律があって隆の前に並んだのは一年の男子である。最初に竹刀を合わせたのは背丈が180を超えた者で、吉崎の話によると中学時代に区で個人優勝という実績があった。強豪のО高校ではなく、ここに来たのが喜ばしいことと言っていた。
隆は立ち上がると剣先を小刻みに上下させながら相手の出るタイミングを伺った。身長が170にわずかに届かない隆にとってこの相手に自分から面を仕掛けるのは勇気が言った。とはいえ相手を面に誘い出して小手や胴に仕留めるのが現役時の持ち味だったので、とにかく気持ちでの攻めを忘れまいと心がけた。
ついに相手が隆の面を狙ってきた。隆は剣先でCの文字を描くようにして右斜め前に踏み込んだ。相手のメタリックグレーの胴が小気味よい音を立てた。そのあと面勝負に切り換えて出小手を面を浴びた。
二人目は隆と同じくらいの背丈で普通の黒胴である。反時計周りに来て面攻撃してきたが、隆はまた胴を抜いて振り向いた。相手の上体が虚空に泳いで、壁の寸前でようやくストップした。隆が面勝負に移るとお返しに胴を抜いてきた。右わき腹から左腰にかけて鋭い衝撃が走った。
三人目は隆より少し背が低く、ワイドなボディに梨色の胴を着けていた。なかなか打ってこないので隆のほうから小手・胴を仕掛けてみたら手元が上がって道場に快音が響き渡った。向こうも隆の手元を浮かせて胴に打ち込もうという色を見せたが、隆はそれを見破って崩さなかった。最後に面に来たのを受け止めて右胴に一撃を浴びた。
「昔と変わらない冴えのある胴だったね」
終わりの礼のあと、吉崎が隆に言った。彼の列には二・三年生が並び、隆は一年の男子全員と稽古した。その全員の胴を抜いて、やっぱり自分のベストショットはこれなんだなと改めて実感した。
「でも、面の破壊力がまだまだだなぁと感じた」
「それでも並んでいるのが誰だか見る余裕はあったよね」
「ヤッパリ女子部員とはもっと上にならないと駄目かぁ」
隆には図星だった。道場でも先生から女子中高生の相手をしていいのは四段合格してからと言われていた。隆の列に並びかけた一年生の女子部員がいたが、上級生の指示で吉崎のほうに回された。
は・・・話がマタ変な方向に 元の原稿があったのは福岡到着まででした ということでここで終わりにします
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