もう少し・・・時が(7)
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K急行の羽田駅を出たモノレールは空港の外周に沿って走った。木更津の方向には着陸態勢に入った便の航行灯が点々としていた。川崎の石油コンビナートの向こうには真っ赤な夕日と富士の黒いシルエットが見えた。
モノレールの改札口から出発ロビーまでの長いエスカレーターを上がると午後七時になっていた。隆が乗る便が出発するまでは一時間あった。吹き抜けに面した土産物店でバナナを使った菓子を買うと自動チェックイン機に航空券を通した。座席は購入した時に指定しておいた。
搭乗口に着いた隆は自分の乗る飛行機を眺めた。タイムテーブルによると機材はボーイング777である。この飛行機はボーイング747に比べるとやや小さいが、世界最大の双発機と言われ、エンジンはジャンボのそれよりも大きかった。また、胴体はズン胴になっているので、ジャンボよりコンテナを多く積めた。
出発便がほとんどなくなったロビーはどことなく閑散としていた。隣のゲートに着いたジャンボから降りてきた乗客は出口へ直行した。
「J航空377便で福岡へご出発のお客様、只今からご搭乗の手続を開始いたします」
案内放送と同時にゲートには行列ができた。客はビジネスと観光が半々である。隆の座席は左主翼付け根の窓側だった。シートベルトを締めた隆はイヤホーンのチャンネルをポップに合わせた。窓と通路に面した席は埋まったが、両側をはさまれたシートはがら空きである。
離陸は北向きに行われた。右旋回しているうちに東京の夜景が広がった。隆はテーブルを引き出すとスピーチの言行に手を入れた。新郎の白水とは小学校から大学まで一緒だった。隆はQ大学の法学部に進み、彼は工学部で電子工学を専攻して地元のF銀行へ就職した。結婚相手は同じ職場の人と聞いた。
パック入りの紅茶とチョコレート菓子が配られると隆は手を休めた。飛行機が向かう右前方の空にはまだ残照が残っていた。漁火か街の灯かわからないが、眼下には光が点々と散らばった。
着陸の案内放送の後、前方のスクリーンに福岡の夜景が映し出された。天気がよくても地上に降りるときは緊張した。エンジン逆噴射の轟音が止むと機内の張り詰めた空気が和らいだ。
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