もう少し・・・時が(8)
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隆は地下鉄の駅から家に電話をかけた。三年前に空港へ地下鉄が乗り入れたので福岡は日本で最も空港が便利な街になった。隆の実家は空港から九番目の西新から南に五キロ離れた田隈である。待ち合わせ場所は母校であるS高校の正門前だった。
「次はいつ帰れるの」
「山笠の頃に夏季休暇を一日入れた」
「福岡支社勤務になる見込みはあるの」
「わからない」
家に着くとまた見合いする候補の写真を見せてもらった。体つきはしっかりして健康そうな感じである。実家は大野城、S学院大を出てN鉄道勤務となっていた。運輸関係の人とは初めてである。
「じゃあ、七月に会ってみるということで」
見合いもさることながら週一回の稽古というのも頭にこびりついていた。本当は週三回は必要と道場の先生は言っていた。実家には古い道具を置いていて、正月の稽古初めに行ったこともあるが、そうでない時期に行くことはなかった。とは言え、白水の結婚式に同席するのがたまたま剣道部で市役所に入った吉崎だったことから土曜の午後に稽古しようという話になった。
隆は家で昼食をして防具袋だけを持ってバスでS高校に向かった。竹刀は借りるつもりである。吉崎は大学一年で三段、大学四年で四段に合格していたが、五段は仕事が忙しいという理由で受けていなかった。剣道連盟の会費が五段から倍になるというのが本心といったところのようである。
東京で稽古しているところは区の体育館だが、高校の道場は汗まみれの防具の匂いが立ち込めていた。部員は三年が男五人、女四人、二年は男六人、女三人、一年は男十人、女八人だった。夏休みが終わると一年が少し減るが、それは学業のほうに力入れるという理由である。
稽古はまず基本からだった。現役と向かい合って顧問の先生、吉崎と数人の地元在住の卒業生、そして隆は一番隅で正座、礼をした。隆も面をかぶって切り返し、正面打ち、小手・面、小手・胴、鍔迫り合いからの引き技、出小手、面抜き胴というメニューをこなした。OBの中で基本に入っていたのは隆だけである。基本は男女に分かれ、隆はもちろん男子の中で回った。
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