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2013年11月18日 (月)

その先へ飛ぶこと〔41〕

前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m

 福岡空港の地下鉄駅から地上に向かうエスカレーターに乗ると冷たい風が吹き降りてきた。トモヒロはクリーム色のコートを着ていたが思わず首をすくめた。三月第二週の金曜日にN通運本社で研究所のOBの懇親会があり、次の日には交通学会の関東部会があるので「研修願」を出して午前で勤務を切り上げた。

 3階にあるレストラン街で昼食を済ませると午後二時過ぎのA空輸便に乗り込んだ。エンジン四つの747ではなく、双発の777である。機体の大きさは747に匹敵するのにエンジンが半分というのは経済性という点で頭ではわかっても安心感という腹では受け入れらのない気がした。

 座席は左の窓側を選んだ。主翼のすぐ前で巨大なエンジンが左下にぶら下がっている状態である。通り過ぎる前なら富士山を拝めるかもしれないという感じだった。乗客は窓側と通路側だけが埋まり、真ん中の席は空いていた。トモヒロはシートベルトを締めるとイヤホンのチャンネルはクラシック音楽に合わせた。

 滑走路の南端に移動して北向きに離陸した。すぐに右旋回が始まって博多湾は見えなくなった。春霞のため、外科医の風景はよくわからなかった。瀬戸内海、大阪湾、伊勢湾と眺めて、もうすぐ駿河湾と思ったら雲が広がって富士山がどこにあるのか分からなくなってしまった。

 高度が下がり始めて雲海が窓に迫ってきた。雲に写った機体の周りに七色の後光が差したようになった。雲の中に沈み込んで窓の外は真っ白になった。上下左右に小刻みに揺れ、客室はしんと静まり返った。雲の下に出て目に入ったのは君津の製鉄所である。まもなく着陸しますというアナウンスが響いた。

 右の窓からはアクアラインが見えるだろうなと思いながらトモヒロは窓の外と前方のスクリーンを見比べた。エンジンの音が高くなったり低くなったりを繰り返し、灰色の東京湾がぐんぐん近づいた。羽田の一番海側の滑走路に南側から進入し、ユーターンすると完成して間もない第二ターミナルへ滑り込んだ。

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