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2013年10月 4日 (金)

ロンゲストマーチ(34)

前回までの内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください m(_ _)m

 靴を履き替える場所は地下だった。東門に面したところに階段があり、中庭のほうにスロープがあった。スロープを登りきったところで栄作は便所に入った。K高の校舎はなぜか三階に便所がないという不思議な作りだった。旧制中学時代の校舎とグランドを昭和三十四年に入れ替える形で建て替えられ、廊下や窓枠は木製である。

 五つ並んだ個室の一番手前の戸が開いて岡部が出てきた。こっそりという感じで、栄作を見たとたん珍しく凍りついたような状態になった。それは竹刀を交えていたときには見たこともない様子である。高校でも週一回武道の授業があったが、栄作は剣道ではなく柔道を選んだ。

「水が流れなくてねぇ」

 岡部は苦笑を浮かべて言った。ドアを開け直してトイレットペーパーを引き出そうとする合間に栄作は便器に横たわる茶色い塊を見つめた。直径は四センチくらいで、便器の水溜りの端から端に三十センチはあった。春休みに竹村が同じように個室から出て来て「水が流れない」と弁解したときも太さ五センチで長さ二十センチはあるものが二つ残っていた。それが栄作に「勝てない」という思いを抱かせた。

「ここ古いもんなぁ」

 栄作は隣に入ってズボンを片方脱いでしゃがんだ。岡部はペーパーを便の上にかぶせて立ち去ったようである。灰色の上着の左袖にはオレンジの腕章がついていた。剣道部と柔道部は文化祭で校内の警備担当となっていた。

「あわぁ、また流れそこないか」

 後ろの戸が開いて同時に聞こえたのはN中出身の三年の先輩だった。レバーを踏むと水が出たが、「デカイと無理だな」と呟いて栄作の前に入った。栄作は太さ三センチで長さ二十五センチの塊を二つ押し出したが、存在感は違うなと思った。水の勢いは弱かったが、何とか流れた。

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