大阪感情線物語(33)
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四年生になって家を出る時間はラッシュを過ぎてからになった。受講届けを出したのはゼミの他に経済学部の交通経済論、前期と後期に二単位ずつの証券取引法、法とコンピュータ、民事訴訟法、行政学である。ゼミさえ取れれば大丈夫なので、民事訴訟法は出なくなっていた。
三年生で単位は揃えたものの、成績は決していいとは言えなかった。「可山優三」にはならなかったものの、優はゼミ、比較政治学、日本政治史、都市行政論、国際法である。ソ連法、商法が可で、後は良だった。
刑法各論は相談部の先輩から中川先生の出す本の校正を手伝うアルバイトに誘われた。担当した174条の猥褻以降は完全と思っていたが、出題されたのはそれより前の部分の文書偽造である。アルバイト代は図書券で、勉強しなさいという意味合いなんだと思った。
梅田に向かう普通電車の中では共通一次で取った生物の参考書、大阪から天王寺への奈良行き快速電車ではやはり共通一次で選んだ日本史の参考書を見ていた。神戸市上級職員の一次試験の教養の準備は大学受験当時のレベルを取り戻すということから始まった。
天王寺で乗り換えた各駅停車は銀色の車体に水色の帯を入れた四両編成の新車だった。他の線のお下がりばかりの阪和線にしては珍しい存在である。Mは一番後ろではなく、後ろから三両目まで歩いてシートに腰を降ろすと再び生物の参考書を広げた。
「おやぁ、公務員試験の勉強ですかぁ」
紺色のスーツに赤と青のストライプネクタイを締めた今村が現れた。彼も何故か入り口から離れたところに乗り込んできていた。
「どこかにOB訪問するんか」
「夕方に川原先輩に会うんや」
その人は一期上でD生命に入った。配属は難波にある大阪南支社で、後輩をリクルートする役目のようである。Мも夜にいくつか金融機関に行ったOBからの電話を受けていた。公務員の滑り止めとして民間も考えてはいたが、金融よりも運輸関係のほうに興味があった。
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