その先へ飛ぶこと(7)
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秋葉原はあまり食べ物の店には恵まれていなかった。N通運本社ビルの地下三階にある社員食堂の他に考えられる選択肢は限られていた。少し歩いて神田に行けば、行列の出来るソバ屋があったりしたが、秋葉原の中央通りだとМ屋という牛丼チェーンに天丼のチェーンくらいしか見当たらなかった。もちろん秋葉原デパートには食べるところもあるが、急かされるような感じだった。
忙しい時期には夕食をして再び職場に戻るということが多かった。それは結婚してからも変わらなかった。人によっては職場の住所に住民票を移したのかというくらい入り浸っているような状態だったりした。
「食べて帰る」と妻に言って出勤したので、トモヒロは午後七時にМ屋に行った。玉子に味噌汁、サラダのセットで500円というメニューを選んでカウンターでそそくさと済ませ、また職場に戻った。三十分くらいたって佐野が現れた。彼は横浜に出張して家には戻らずにここへ来た。
「四月から福岡って本当」
彼はトモヒロの席まで来て小声で尋ねて来た。経済研究部のスタッフのほとんどは帰宅して、情報システムのほうは半分くらい、管理部も皆帰っていた。
「N大学の流通科学部というところ」
「N大学?それは新しいの?」
「栄養士とか幼稚園の先生を養成するので四十年くらいやってて、去年、流通科学部を設立した」
「学生集まっているのかなぁ」
それが心配の種だった。歴史の浅い大学は受験生を集めるところから厳しい状態である。そして入学者は定員を割ってしまうというような状態になっていた。
「定員は百五十人で今のところ埋まっている」
「就職がどうなるかが鍵だろなぁ。まあ頑張ってください」
佐野もどこかに移ろうと考えているみたいだし、今年で七年目になるK大出身の者もいろいろな論文を書いているのでいずれは出るつもりだろうとトモヒロは思っていた。
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