下り坂(127)
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平成十九年の秋に哲也は「エアラインのグローバル戦略の現状と見通し」という表題で学会で発表をすることになった。会場は関東部会長が勤務しているC大学である。多摩丘陵にあるこの大学へのアクセスはモノレールだった。哲也が住んでいるところからは新百合ヶ丘から回るのが便利だった。
モノレールを降りるとC大学の門は目の前である。土曜日の朝九時にキャンパスに入ると竹刀のはじける音が聞こえた。玉竜のハイライトシーンは今年から廃止になった。男子はN中から入った一年生の安川が先鋒で初戦は三人抜きしたものの、二回戦で終わった。女子は島田の妹が大将で五回戦まで戦った。最後の相手は大分のチームである。
大教室のある校舎の入り口が受付だった。哲也の発表は午後二時からで、航空・海運の会場である。発表者の大半は大学教員か院生で、哲也のような企業の研究所は少数だった。経済学の関係が多いため、予稿を見ると数式の羅列が多く、哲也のように文章主体というのはこれまた少なかった。
午前中は鉄道のグループの話を聞いた。整備新幹線の必要性とか大都市の通勤というのは毎年のように出てきた。整備新幹線は北海道のグループが「飛行機では役に立たない」というような論調で、哲也の神経を刺激したが、あえて何も言わずに質疑の時間をやり過ごした。
昼休みは学生会館の食堂でのランチだった。二日目は弁当を注文した。大学時代は四百円が相場で、その予算で食べられるのはありがたかった。ご飯に味噌汁、チキンとサラダの皿を取って精算するという形である。食後は書籍や雑貨のコーナーも見て航空・海運の会場に移動した。
哲也の前の発表は二つあった。発表二十分、質疑応答十分というのが目安である。まずイギリスの空港民営化、それから日本の空港アクセスに関して時間と費用の数式による分析だった。哲也は最前列で耳を傾け、質疑応答も特に発言なしだった。司会はK大学の先生でテレビでも交通関係のコメントで登場していた。
「A空輸総合研究所の岡部と申します。本日は発表の機会を与えていただきありがとうございます」
哲也はそういうとパワーポイントで「航空アライアンスの類型 独立系とグループ系」から出した。独立系は旧共産圏に多いもの、グループ系はA空輸が入っているアライアンスのようなところである。
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