軍艦のある丘(3)
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社員食堂は南口のほうにあって入り口の前では外車のディーラーがワインレッドとネイビーブルーのセダンを展示していた。いずれも300万円を超えるもので、新入社員が買うには気のひけるタイプだった。寮の駐車場にあるのはホンダのプレリュードが主流である。それからスカイラインやクーペタイプがあった。
大学では昼食の予算は400円前後だが、ここではご飯に味噌汁と一皿で500円くらいした。支払いはプリペイドカードで残金が少なくなると機械で入金した。昼食のあとは18階の展望室に上がった。エレベーターは17階までで、そこからは階段を使わなければならなかった。
まず南の景色は遠くに相模湾、そこにつながる平野、丘の下の幹線道路は小田原のほうに向かっていた。ここが艦橋のトップで相模湾に向かって大砲をぶっ放したくなる気分である。西のほうに回ると東名高速が湾曲していてインターチェンジになっていた。金曜日の夜になると関東に実家がある者は車でここから東進して行った。
北のほうは東名高速が山の中腹を酒匂川の上流に向かって走り、天気がよければ富士が顔を出した。松田の町はこじんまりしているが、ここは小田急とJR御殿場線がクロスする要衝である。西は酒匂川の右岸を小田急が走り、眼下には幹線道路沿いに店が並んでいた。インターチェンジの出入口もあって物流センターが見えた。
午後は審査済みの書類の格納である。職業から引き受けの可否を判定するのが「決定」で医学的な状態から判定するのは「査定」である。「査定」をするのは医師の資格がある人で、神田・上野・大塚・目黒・渋谷と山手線を連想させる名前が並んだ。書類に判定のコード番号が手書きされてそれをパソコンで入力する役の人が5人ほどいた。OKの場合は書類の番号に「100」のコードがつき、実行キーを押すとオンラインに乗り、支社の端末で確認することができた。
書類を棚に格納するのと平行して死者からは問い合わせの電話が来た。「見合わせ」とか「二年後」は各エリアの責任者の副長や課長が応対した。「見合わせ」は無職とか契約者と受取人の関係がおかしいというもの、「二年後」は医学的な理由で引き受けられないというものである。部分的に認めるという条件で「部位不担保」「保険料割り増し」「保険金削減」という区分もあった。
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