下り坂(133)
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K高同窓会幹事の年から十年が過ぎて哲也たちは関東の総会に出ることにした。前年にはちょうど創立100年となり、会場も高輪から東京タワーの近くのPホテルに代わった。哲也の他に来たのは中田、辻など八名である。中田はI商事でずっとロシア・東欧にいたが、辻はアナウンサーから管理部門に移っていた。
「テツはATR72って飛行機知ってる」
名刺を交換してから中田が哲也に言った。
「フランスとイタリアの共同開発だったよね。七十二人乗りだけど、プロペラ」
「うちが販売代理店になったけど、なかなか売れなくてねぇ。静岡に出来る会社はブラジル製のジェットを採用してしまった」
「プロペラだとせいぜい五百キロくらいの路線だろなぁ。大阪から種子島とか対馬とかそういうところに直接飛ぶ需要ってなかなか」
「ロシアにも売り込み図ったみたいだけど、あちらにもアントノフとかスホイとかあるし」
会場には棚ぼたで日銀総裁になった人や郵政で自民党を追い出され、国民新党の参議院議員となった人も来ていた。一期下で郵政で自民党から離れ復帰を許された者は選挙が近いせいか九州に帰ったようである。
「ポンバルの代わりにということはないかなぁ」
「それはこっちに言われてもねぇ」
「研究所というのは片道切符なんか」
辻が割り込んだ。彼もいずれは子会社に行くことになるだろうと言った。生徒会長はS製鉄の本体にいて課長の肩書き、道路公団の者は東日本高速道路に移っていた。
「三年ごとのローテなら戻っているんだけどね」
同期入社の者は三割ほどがグループ会社に移っていた。本体で役員に行けそうなのは労務関係の一人と海外に出ている二人に絞られた。
「夏休みはどうするつもりなんだ」
「去年は祇園太鼓のときに戻った。N中にも行ったよ」
一年生にものすごく強い者がいたことは黙っていた。一番上の兄が全国に出て中田と同じ大学に行き、双子の弟が三年生で、末弟が一年生だった。哲也は相手した全員に面返し胴を浴びせたが、末弟の面の早さには食い込まれてしまい、報復に飛び込み胴を決められた。N中のレベルは全体に高くなっていたが、それは一際すごかった。
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