下り坂(121)
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成田空港から飛び立ったロンドン行きのV航空A340は搭乗率が七割程度だった。哲也は左主翼のすぐ前の窓側席で遠ざかる大地を見下ろした。赤いエンジンカバーや主翼が水煙を上げて雲の中に突っ込んだ。
勤続十五年ということでリフレッシュ休暇をもらった哲也は六月半ばに二回目のロンドンに行くことにした。往路はマイレージの提携もしているV航空を利用し、帰りはA空輸である。航空券とホテルだけの個人旅行はインターネットで手配した。
ボーナスの大半は貯蓄に回したが、気がつくとD銀行が合併してできた新しい銀行の口座残高はペイオフの一千万円に迫っていた。ここには入社直後の利付金融債を定期預金に切り替えたものも含まれた。他には郵便局、そして外貨預金としてドル・ユーロ・ポンド、自社株の持ち株会、不動産投資信託にも手をつけた。
成田にはJRの特急で向かった。関西空港からロンドンという便があったときは羽田から飛ぶという選択もできたが、この路線は休止になった。羽田が拡張されれば国際線も飛ばすようになるが、その場合は早朝または深夜という時間帯になりそうだった。
うんざりする十二時間のフライトはロシア上空で仮眠をとり、サンクトペテルブルクを北から見下ろすコースで二度目の食事が出た。哲也は使い捨てカメラでサンクトペテルブルクの街と食事に一枚ずつシャッターを切った。
ロンドンの街を北から見下ろすことができて哲也は使い捨てカメラの本領発揮と次々に撮影した。デジカメならば着陸前で使えないからである。帰国したら現像してCDに入れてもらいホームページにアップするつもりだった。
ロンドンの西にあるヒースロー空港に着いたのは午後四時である。入国審査を終えるとパディントンにノンストップで向かう「ヒースローエクスプレス」に乗った。前回は地下鉄ピカデリー線で一時間近くかかったが、今回は十五分でパディントンである。ホテルは駅と直結していた。
二人部屋を一人で使うのは仕方なかった。日本国内での出張でシングルに泊り慣れている身にもう一つのベッドが空なのは何とも無駄なスペースという印象しかなかった。哲也は日本から持ってきた菓子パンと成田空港のセキュリティチェック内の売店で買ったペットボトルのお茶を飲んでベッドに潜り込んだ。ロンドンには五泊する予定でまず休養を取っておくことからはじめた。
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