下り坂(118)
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経団連の会議室で哲也は航空政策研究会の月例報告会をやることになった。テーマは「A空輸のボーイング7X7計画への参加」である。四月に会社として7X7を最初に導入する会社として開発に関わることになったとプレスリリースがあった。それから研究会から是非報告をという働きかけがあったが、誰が発表するかとなると「現場で直接関わった」という理由で哲也に回された。
報告会は朝九時から始まるため、哲也は直接会場へと向かった。パワーポイントを用意して席を見回していると定員百人は完全に埋まった。平均年齢は四十歳くらい、大学院生と思われる若者も何人かいた。一時間ほど話して質疑応答が約三十分である。報告会の内容は「航政研シリーズ」として出版もされた。資料はプレス発表したものばかりだが、裏話が期待されているのかなと哲也は思った。
「本日はお忙しいなか当研究会にお集まりいただきありがとうございます。本日の報告はA空輸経営企画部の岡部課長補佐からです。平成元年に入社して福岡支店・本社旅客営業本部・大阪支店・本社広報室、運輸政策研究機構への出向を経て現在の所属で7X7計画への参加検討を進めていたということで、経緯についてお話いただくこととします」
司会は研究会のМ大学助教授だった。この人は元J航空で哲也は何度も研究会や交通学会で直接話をしたことがあった。 「紹介をいただいた岡部です。まず当社が新機種に求める役割から話させていただきます」 哲也はスクリーンの画面を「767の先にあるもの」に切り替えた。国内線の主力機種の後継としては運航コストのさらなる低減、国際線では新たな需要開拓ということである。それから「コスト低減に期待される新技術」として機体の軽量化につながる炭素繊維の技術を挙げた。
裏話は日本の航空機産業がどこまで分担できるかということだった。777以上に踏み込むということで準国産といってもいいレベルだが、最終組み立てがシアトルということが限界である。ボーイングとの折衝も最初に導入するということで開発に伴うリスクを引き受けるという問題があった。50機を発注するということで先鞭はつけたが、767の新しいシリーズでもいいのではないかという社内の声も皆無ではなかったし、737は最初のタイプが三十年以上前にできてそれが次々に新しいタイプがデビューしていた。A空輸の子会社では古くなった737を新しい737に置き換える方向である。
説明を終えると質疑応答である。どこからどんな質問が来るのか哲也は身構えた。最初に手を挙げたのはJ航空のOBでN大の先生をしている人だった。国際線はどこを想定するつもりなのかということである。
「今後の情勢によって変化すると思いますが、私個人としては、南米・オセアニア・アフリカを想定しています」
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