下り坂(99)
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着替えて階段を下りると「あら岡部君じゃない」という声がした。哲也は一瞬誰だか思い出せなかった。剣道部の同期の女子は三人いたが、もしかしたら結婚して苗字が変わっているかもしれないと思った。
「昔こんなことしたらアウトだったよね」
哲也は笑ってごまかした。ズボンのポケットに名刺入れがあったので取り出した。向こうからも名刺が出てきて苗字は変わっていなくて地元の広告関係の会社にいるのがわかった。
「あらぁ広報室だったら広告とかやってますよね」
「出版が中心だけど」
それから今年が卒業十四年目で、五月の同窓会の総会で幹事をやらないといけないこと。小倉では野球部だった井原を中心に準備をしていて、関東はS製鉄に入った生徒会長が中心になっていると言われた。同窓会のことを完全に失念していた哲也は赤面せざるをえなかった。
「明日の夜は同期で集まるけど・・・チケットは難しいでしょうから広告のほうで」
「実は明日の夜には東京に戻ってます。広告って新聞とかに」
「いえ、総会で配る冊子にです。医者とかになっている人とかに頼んだり、まだスペースが埋まりきっていないので」
哲也は自腹で会社の広告を小倉の総会と東京で行われる総会で配る冊子に出すことを了解した。小倉の総会は五月下旬だが、区の大会と重なる可能性が高かった。東京の総会は六月の初めに予定されていた。同期のホームページも作られていて、道路公団に入った者が管理していると聞いた。道路公団は哲也のいるビルの隣である。
それから体育館で車座になって各期ごとに話をしていくことになった。床にはAビールが並べられた。哲也は今年の目標に四段合格をあげ、続いて話した女子は今年が総会であることとOB会長に久しぶりに総会の件で会ってここに来たことも述べた。それで広告ゲットできたとはさすがに言わなかった。
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