下り坂(74)
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ロシア上空は飛行時間の三分の二を占めた。昼食が回収されてから窓のバイザーを下ろしてくださいという放送があって機内は暗くなった。その間に睡眠をとっておいてロンドンで入国手続きやホテルまで移動するのは日本ならば深夜という状態に備えることにした。哲也が泊まるホテルはイギリス周遊ツアーと同じところにあり、一緒に移動するということで調整してもらった。帰りは一人でヒースローへ向かうことになっていた。
目が覚めたのは日本時間で午後八時、離陸してから七時間を少し超えた頃である。窓側に一人で座った年配の客がバイザーを少し上げて外を見ていた。翼越に見えるのは薄緑色の大地だった。ルートマップではウラル山地あたりに来ているはずだが、目印になりそうなものはなかった。大きな湖が過ぎてフィンランドをかすめ、バルト海、デンマークと通ってイギリスに向かうのがこの先のルートだった。
二度目の食事はパスタだった。食事のあと、哲也は小用で手洗いに行って、ドアの窓越しに外を見た。飛行機は海の上を飛んでいて海岸線はポーランドだろうかというあたりである。席に戻る頃、機体は前のめりになって降下が始まっていた。太陽を追いかけて飛び続けていたが、雲に隠されて、窓の外は真っ白になった。ロンドンは曇りか雨なのかなと思っていると左に旋回して雲の下に出た。窓越しに田園風景が見えた。
ターミナルビルに通じるブリッジが横付けされたのはロンドン時間で午後五時前だった。長い通路を歩いて入国審査場に行き、成田で預けた大型のスポーツバッグを受け取った。それからツアーの客と合流してバス乗り場に行った。ツアーは二十人くらいで、哲也の他に個人でロンドンという者が三人いた。ホテルは空港から地下鉄一本で行けるラッセル・スクエアの近くだが、体内時計がまだ日本の状態で、深夜の地下鉄になるのは大変である。
右ハンドルのバス、左側通行、ドライバーを除くと日本にいるのと変わらない感じがした。空港から少し走って自動車専用道路に入り、鮮やかな芝生でラグビーをやっているのが見えたりしているうちにロンドンの古そうな建物群が見えてきた。ホテルもまた百年以上はあるような感じで、ツアーのほうは添乗員が代表して手続きをやり、哲也は入国審査と同じくひたすら英語で意思疎通を図った。
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