下り坂(68)
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747の客室はほぼいっぱいになった。東京への就職や転勤で上京するという感じの客が大半の感じである。哲也はドア際に座ってイヤホーンの袋を開け、ポップスにチャンネルを合わせた。もちろん万一のときはドアに殺到するのを制止するために声を上げること、ドアは一度中に引きこまないと開かないのである。乗降に使われる前方左の2つのドアが閉められ、ドアのレバーが開けるとスライドが出るようにセットされた。
滑走路に入る前に着陸機を待たされた。窓越しに見ているとJ航空の窓の部分が赤と紺に塗られた古い塗装の747が降りてきた。南向きに離陸して久留米付近までひたすら高度を上げ続けた。左に旋回して窓からは春がすみでどこに山や海があるかわからない風景が目に入った。
あられと緑茶をもらい、機内誌のページをめくった。東に向かううちに遠くの水平線が緩やかな弧を描いているのが見えた。離陸して1時間あまりで降下が始まった。高度が下がると海がはっきり見え、海岸線が現れた。房総半島かなと思っていると点在するゴルフ場がサンゴを食い荒らすオニヒトデのようにグロテスクな姿を見せた。住宅地や道路が目に入って再び海の上に出た。
東京湾岸の幕張メッセやディズニーランドを見ていると床下で車輪を下ろす音がして、風を切る音が耳に飛び込んだ。前方のスクリーンに東京の姿が映し出され、左旋回が始まった。東京タワーが目に入り、すぐ下を倉庫などがかすめた。滑走路の左手には工事中の新しいターミナルビルがあり、軽い接地音に続いてエンジンを逆噴射する轟音が響いた。
羽田空港から豪徳寺までの移動はまずモノレールで浜松町に出た。それから山手線に乗り、東京駅で中央線に乗り換えた。飯田橋から市谷にかけての堀端の風景は雑然とした東京の中で憩いのあるところと感じた。桜はちらほらと咲き掛けの状態である。新宿に着くと小田急に乗り換えた。東京での通勤は小田急から地下鉄千代田線というルートになるのでここに来るのは道草という感じである。
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