下り坂(66)
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学科の次は剣道形である。哲也はトレーナーに相当する打太刀で、相手は36だった。打太刀の攻撃に対してトレーニーの仕太刀が打ち返すという形である。実技と学科が合格してもこれで不合格になると最初から受け直しである。実技に通ればほぼ合格とは言われるものの、逆に緊張感が増した。
初段や2段は審査員の前で5組ずつ披露したが、3段は最後に横のスペースを大きく使うので、3組ずつである。それだけ審査員の目にはよく見えるというプレッシャーがあった。初段では時々中学生がやり直しを命じられ、3段でも最初のほうでチェックが入った。飛行機に乗っていても着陸は緊張するものであるが、相手があやふやに覚えていると夜間悪天候という恐ろしいものになった。
哲也たちの番がきた。真ん中で木刀を抜き合わせ、剣先を右斜め下に落として間を開けた。哲也が左足を前に出して上段に構え、36はそのまま上段に振りかぶった。三歩進んで哲也が上段からひざ下まで斬り降ろすのを後ろに引いてかわし、頭ぎりぎりに打ちおろされた。一歩下がると眉間に剣先が突きつけられ、もう一歩下がると36は左足を前に出して上段に構えた。
小手に対する小手、突きに対する突き、哲也が八双、36が脇構えから切り結んで、哲也が右胸を突くのをかわして面、哲也が左上段から面に撃ち込むのをすりあげて面、ここまでは2段までである。最後の2本は哲也が中段、36は下段で下段から剣先が上がるのを押さえ、抑えきれずに右足をひいて上段、さらに左足をひいて中段から小手に行くのを36が剣先で半円を描くようにして小手に返した。哲也が左後方に引くと36は左足を前に出して上段に構えた。
審査員からの命令は一切なく、一番最後が始まった。互いに中段で三歩進み、哲也が突きをなやされて一歩下がり、左足・右足と歩みながら面を打つのを36が胴に抜いて右膝をつくという技だった。実技のお返しだなと思いながら、振り向いて剣先を合わせ、哲也が引くと右膝をついた相手が立ち上がった。それからゆっくりと旋回して元の位置に戻った。最終結果は合格である。
「また稽古に来られますか。9月末まで土日も自主練をしてます」
終わってから36が哲也に話しかけてきた。哲也は「来週は資格試験があるからなぁ」と答えた。山田も「終わったら是非」と言った。
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