下り坂(64)
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空には秋の気配が漂っていたが、地上は残暑である。Q電力体育館に着いた哲也の耳に飛行機の音が飛び込んだ。見上げるとA空輸のボーインク767だった。福岡空港に降りる場合、海側から直接入るならQ大学のキャンパスの上を突っ切るが、内陸に入る場合は大堀公園の池を右に見るこのコースである。747のように大きいと池を左に見てから旋回した。
入社3年目になって仕事のほうは福岡とバンコクを結ぶ新路線のセールスが加わった。旅行業務の資格で海外を取るのが3段の審査の次の週に控えていた。TOEICのスコアは635で海外出張できるというレベルには達した。次の勤務地がどこになるかは今までの人事ローテからだと本社あるいは東京周辺である。
4月に剣道祭に出たときは福岡ではこれが最後かなと思った。やはり先鋒で最初は隣の区と当たって引き胴で一本勝ち、次が拘置所チームに当たって哲也の胴は旗一本、相手の面に旗二本となりチームも負けた。土曜の夜の小学校での稽古に加え、昼間に高校や大学の稽古にも連れて行ってもらうダブルヘッダーもこなした。
Q電力の体育館には六つの試合場が作られ、初段は三つ、二段が三つでうち一つに三段が入った。受ける人数も初段510人、二段404人、三段48人という比率である。哲也がもらった番号は40だった。22までが女子で、年齢順に並ぶと23から大学生となった。初段・2段はもちろん3段でもかなり年を取った人が受けていた。
S学院大の法学部に入った山田が審査を見に来ていた。ここに出稽古させてもらったときは竹刀を交える機会はなかった。彼は高三で3段に合格しているので、受ける必要はなかった。S学院大からは男女合わせて5人が受けに来ているということだった。その中の一人が36で哲也と当たることがわかった。39は哲也と同じように会社に入って剣道部に誘われたということが周りとの会話で判明した。
2段の審査が終わるのを待つ間、哲也は学科の問題と解答例の他に海外観光地の問題集を見て高まる緊張感と戦った。剣道形は前夜に最終のチェックをしてあとは本番というところである。初段は3本、2段は5本、3段で7本。この後に小太刀が三本あるが、それは4段からだった。
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