下り坂(70)
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年末が迫った土曜日に哲也は東京武道館で月一回行われる都剣道連盟の合同稽古に行くことにした。参加資格は3段からとなっていたが、最初はS剣友会の稽古で手一杯だった。水曜日の夜はやはり仕事優先で帰りに覗いてみるだけという状態である。9月に日本武道館で行われた実業団はスタンバイ要員だったが、メンバーが一人来られなくなって次峰に入った。1回戦の相手はC電力で哲也は面抜き胴で一本勝ちしたが、チームは本数差で敗れた。
前の週には運輸大臣杯争奪戦が行われ、哲也は次峰として参加した。中央区にある体育館が会場で、初戦の相手はFエクスプレスという物流会社だった。先鋒が小手で一本負け、哲也はまた面抜き胴を取ったが、小手で追いつかれた。そのあとも引き分けが続いて涙を飲んだ。東京武道館にはまだ行ったことがなかったが、4段の審査はここであるということでどんな場所か見ておこうと思った。
稽古会が始まるのは午後一時半からだった。寮では昼食がないので駅の近くにある牛丼チェーンで早めに済ませて、電車に乗った。代々木上原で綾瀬行の千代田線電車に乗り換えるのは通勤のときと同じである。座席に腰を下ろした哲也は防具袋に入れていた。TOIECのリスニングテープを取り出した。春に受けたときのスコアは720で海外支店勤務はあと一歩だった。
いつも降りる国会議事堂前を過ぎ、霞が関、大手町、新御茶ノ水と東京の中心部を走った。前に置いた防具袋と竹刀袋が邪魔にならないか気になったが、そこまではひどくならなかった。東京で経験した試合は二回とも電車移動で、行きよりも帰りのほうが混雑していた。東京武道館の稽古は午後三時に終わり、哲也は寮に戻って夕食を済ますとS剣友会でダブルヘッダーの腹積もりだった。
北千住で何人か防具を持った人が乗りこんできた。電車は地下から地上に上がって、大きな川の鉄橋を渡った。別の路線の鉄橋も並行していて東京の巨大さを否応なく感じさせられた。綾瀬に着くと定期券の乗り越し精算をして改札を出た。駅の前にはスーパーがあり、少し歩くと東京武道館に通じる遊歩道である。駅からは歩いて十分と聞いていた。
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