下り坂(44)
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「テツは三年生に上がるの大丈夫」
中田の問いに哲也は「まあ何とか」と答えた。語学は英語と中国語、自然・人文・社会、体育と何故大学でも高校の延長のようなことをするのかという疑問はあった。それでも法学の基礎となる憲法・刑法・民法は二年生でも取ることができた。
「第2外国語をロシア語にしたのは失敗だったかなぁ。でも他学部の女の子とも接触できるのがね」
「どうしてロシアにしたんだ。敵を知ることかな」
「アメリカと対立する側も見てみようと思って。シベリア鉄道の乗りつぶしもしたくなった」
高校入試の直前にNHKが放送したシベリア鉄道は、単行本も出され、哲也と同じ英語のクラスの者も夏休みに東から西へ向かう形で乗ったのがいた。そいつはさすがに1週間も列車に乗り続けるのは狂いそうだと述懐した。
ゼミをどうするかというのも話題にあがった。哲也は憲法か国際法に希望を出し、中田は交通論か金融論と言った。
岡山駅に到着したのは正午である。次は下関まで乗り換えなしで行けるダイヤだった。弁当と飲み物を買って、新幹線ホームの下で行き止まり式になった山陽本線下りホームに止まっているグリーンとオレンジで塗られた4両編成に乗り込んだ。一番先頭は入り口から遠いため、楽に座れた。今度は哲也が進行方向の左窓側、中田がその斜め向かいだつた。
「こういう座席なら食べるのも抵抗感ないな。窓に背中向けるタイプだとチョット」
哲也は幕の内弁当の掛け紙を丁寧に外しながら言った。別の4人掛けに1人で座った男性客もサンドイッチをほおばり始めた。
「どうかなぁ。公園のベンチみたいな感覚で、阪急京都線でハンバーガー食べてた奴がいたよ」
「特急じゃないの」
「うん。急行だった」
電車が動き出した。哲也は右の窓側に目を凝らした。大学受験の模擬試験でなじみだったS模試の会社の看板が通り過ぎていった。
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