下り坂(23)
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観覧席に戻った哲也は、他の一年生4人と選手の荷物の周りを囲んだ。玉竜旗は男女別々の日程で行われ、女子が先である。そのときは学校で補習授業を受けた。入学した時は7人いたが、一学期の中間考査が終わるころには今の人数になっていた。やめた者は文化部や「帰宅部」に転向した。
アリーナには4つのコートがあり、それぞれに組み合わせ表が貼られていた。福岡県内は大半の高校が参加していたが、遠くは北海道からも来ていた。K高の選手は7人揃って黒に金色の校章の入った胴だった。哲也は来年にはそれを着けてここに立ちたいと思いながら、各コートに視線を走らせた。
すぐ下では、N高の試合が始まるところである。先鋒はいきなり合面で負け、つぎは慎重に間を詰めて面打ちに出た瞬間に胴を抜かれた。二人目は30秒もたたないうちに小手を2本取られ、中堅も1分程度で面2本、副将は面抜き胴を狙ったが「面あり」になり、鍔迫り合いに持ち込んで引き胴を食らった。大将は粘ったものの、面一本を奪われ、五人抜きの栄誉を与えてしまった。
平田のところは隣のコートだった。既にK高の選手も順番が近づいていて審判席の後ろに待機中である。先鋒の名前を見て哲也はハッとした。変わった名前で中三の市大会で個人優勝し、インターハイ予選のときも次鋒に入るという実力者だった。彼のいたE中学は全国大会をあと一歩で逃した。
相手は上段の選手だったが、小手を奪って勝ち残った。二人目には面を受け止められてからすかさず引き胴を決め、取り返そうと面に来たのを抜き胴で沈めた。3人目には有効が取れずに引き分けたが、そのあとの二戦は引き分けで、二人残しで勝ちとなった。次の相手は大阪から来ているU高校である。
K工業との戦いが始まった。先鋒戦は両者ともポイントがないまま時間切れになった。次峰は顧問の先生の長男で学業でも十本の指に入っていた。哲也は最初の実力テストで四百四十人中百七十番、一学期の期末で少し上がって百四十五番である。面抜き胴で先行したものの、小手を取り返されて引き分けた。
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