下り坂(21)
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哲也は冷えた足首や膝をほぐしながら成り行きを見守った。両者ともに力の差はない感じである。斎藤は長身からの面、背丈が不通の中田は小手か胴という見立てだった。開始から一分くらいのところで中田が斎藤の面に胴で返した。そのまま逃げ切るかと思ったが、斎藤は思い切った面勝負を仕掛け、中田の出小手が外れたために追いついた。そのまま時間切れとなって哲也と大塚で勝負が決まることになった。
引退してからの哲也は、受験勉強の合間に高校用の竹刀を振っていた。学校では中学用だが、やはりわずかな差でも軽いほうがよかった。大塚は哲也の胴技を警戒してなかなか仕掛けて来なかった。哲也がスッと間合いに入ったり、切ったりしていても時間が過ぎるばかりである。互いに合面勝負をして振り向いたとき哲也は大塚の剣先が天井を向いているのに気づいて小手に行った。先生が旗を上げた。
大塚の逆襲をしのいで、時間終了になった。中田が「静かな試合だったな」と言って背中の標識を外した。
「見せ場が少なかったということかぃ」
「まぁ、結果よければ全て成功さ」
「せっかく先に取ったのに追いつかれたのは残念だったな」
二年生は最後に福原が面一本で勝利した。一年生では野村が小手を取られたものの胴2本を取って勝っていた。教室に戻ると「ぜんざい」が用意されていた。
「K高はいったい何人が受けるのかな。定員が10人減るみたいだね」
広川と三浦が話しているのに哲也は割り込んだ。1学年上は25人が受けて14人が合格した。丙午ということで定員が減ったのはギリギリのところにいる者には痛手である。
「さあ、うちの順位なら40番くらいまでがラインじゃないの」
哲也は10番から15番くらいのところにいた。さすがにその上となると食い込むのが難しかった。模擬テストでは200点満点で185点くらいまで来たが、それを本番で出せるかが重要だった。
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