下り坂(31)
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バスが大門を出ると哲也は窓枠の降車ボタンに手をあてた。右手に4両の電気機関車が並んでいるのが目に入った。この4両は全く使われていないようで真っ赤な車体が少しずつ色あせてピンク色になっていた。視線をそらしたために誰かがボタンを押すのを見落としてしまった。哲也は「しまった」と呟いた。
「いつまでたっても子供やのう」
隣に座った広川が突き放したように言った。彼は医学部を目指すため、理系クラスにいた。哲也は文系で体育部の固まった4組である。辻も同じクラスだった。3年になって剣道部の顧問は若い先生に代わって稽古もハードになった。インハイ予選は団体はS高校に敗れ、個人も県大会にあと一つで敗れた。哲也が負けた相手はJ高の天野である。T高校はギリギリで県大会に進出した。平田はそのチームで副将に入っていた。
文化祭のため、校舎は色々な飾りが着けられていた。玄関の柱の間には地球とスペースシャトル、そして「第36回文化祭」という文字の入ったパネルがあった。これは特別に製作班があって広川はその責任者である。昇降口の手前には「文化祭まで あと○日」という表示板が置かれていた。これは青いマス目の板に赤く塗った木片を入れて作られた。
剣道部は文化祭で校内の警備を担当することになっていた。生徒会の役員は紫、警備はオレンジの腕章を着けた。夏の始まりでかなり気温が上がり、上下グレーの制服は少し辛かった。3年4組の教室は特別企画で体力測定の部屋になっていた。机やイスは体育館に運ばれ、ここは大食堂としてカレーライスやケーキなどを提供する場に変わった。剣道場は三年生のクラス劇の準備をするコーナーとなり、哲也のクラスは「ロミオとジュリエット」をやったが、哲也は通行人の1人という役目である。
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