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2012年12月 3日 (月)

下り坂(17)

前回までの 内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください

 昼休みになって別の教室にいる中田が哲也のところにやってきた。哲也は彼とベランダに出た。国鉄の線路をピンク色に塗られた8両の電車が通り過ぎた。

「テツは志望校どうした」

「Kだよ。エーサクは」

「KとW、高校でも剣道はやるつもり」

 W高校はK高校から1キロほど南にあり、中田の家からは国鉄でも通いやすかった。ここは元女学校のせいか女子の割合が高かった。

「そうなるかな。Kに入るなら野球に戻るのか」

 K高校は第二次大戦直後に夏の大会を2年連続優勝していた。甲子園にあと少しという状態が続いていたが、3年前の選抜には久々に復活した。

「合格しないとね」

 ディーゼル機関車に突き放された4両の貨車が貨物駅に向かって緩やかな坂を下って行った。貨車には緑色のコンテナが5個ずつ詰まれ、駅には2段積みされたコンテナが並んでいた。

「N高に比べたら、K高のほうが、大学の合格実績も上だったみたいだね」

 哲也は将来をどうするのか考えていた。父はQ大学の法学部を出て市役所に勤め、母は専業主婦である。剣道で全国に行くほどの力なら将来は警察に入るコースがあるが、そこまでの力がなければ大学を出て公務員か会社員というレールしかなかった。国立の大学で法学部か経済学、剣道と学業を両立させる高校生活なんだなと思った。

「だけどN高の入試はみんな受けることになるんだよね」

「それで思い切ってK高にチャレンジか」

「うん、三浦や広川みたいに楽勝とはいかないかもしれないけど・・・」

 この2人もK高の学区内である。常に5番以内をキープする彼らがどうするのか、L高校でも狙うのだろうかと思ったが、そういう話を直接したことはなかった。

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