下り坂(17)
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昼休みになって別の教室にいる中田が哲也のところにやってきた。哲也は彼とベランダに出た。国鉄の線路をピンク色に塗られた8両の電車が通り過ぎた。
「テツは志望校どうした」
「Kだよ。エーサクは」
「KとW、高校でも剣道はやるつもり」
W高校はK高校から1キロほど南にあり、中田の家からは国鉄でも通いやすかった。ここは元女学校のせいか女子の割合が高かった。
「そうなるかな。Kに入るなら野球に戻るのか」
K高校は第二次大戦直後に夏の大会を2年連続優勝していた。甲子園にあと少しという状態が続いていたが、3年前の選抜には久々に復活した。
「合格しないとね」
ディーゼル機関車に突き放された4両の貨車が貨物駅に向かって緩やかな坂を下って行った。貨車には緑色のコンテナが5個ずつ詰まれ、駅には2段積みされたコンテナが並んでいた。
「N高に比べたら、K高のほうが、大学の合格実績も上だったみたいだね」
哲也は将来をどうするのか考えていた。父はQ大学の法学部を出て市役所に勤め、母は専業主婦である。剣道で全国に行くほどの力なら将来は警察に入るコースがあるが、そこまでの力がなければ大学を出て公務員か会社員というレールしかなかった。国立の大学で法学部か経済学、剣道と学業を両立させる高校生活なんだなと思った。
「だけどN高の入試はみんな受けることになるんだよね」
「それで思い切ってK高にチャレンジか」
「うん、三浦や広川みたいに楽勝とはいかないかもしれないけど・・・」
この2人もK高の学区内である。常に5番以内をキープする彼らがどうするのか、L高校でも狙うのだろうかと思ったが、そういう話を直接したことはなかった。
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