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2012年12月28日 (金)

下り坂(39)

前回までの 内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください

 慈照寺に入った哲也たちは、銀閣と庭を堪能した。古都保存税を客から徴収するという問題で、清水寺が拝観をストップしていたこともあって、見られるところは貴重だった。それからバスで河原町まで移動して、梅田行の特急に乗った。他の車両がチョコレート色1色なのに対して、特急専用の車両は屋根に近い部分を白く塗り分け、座席も二人掛けのシートが景色を見やすいように窓と直角に並んでいた。

「9月に入ったら試験が地獄やなぁ」

 哲也と並んで座った菊池が呟いた。彼は神戸から通っていて工学部の原子力コースだった。

「ドイツ語はどうなの」

「先生が厳しくてなぁ。中国語は」

「よくわからないけど、法学部は取っている者多いよ」

 電車は烏丸・大宮と連続して止まったが、大宮を出ると宝塚線に乗り換える十三までノンストップである。地下から地上に出てスピードが上がった。

「法学部で何を取るかは来年に決めるんだろ」

「2年の終わりにゼミの希望を決めるらしい」

「どうするんだ」

「まだ何とも」

 法学部ならば公務員・民間企業と幅広く考えられた。教員というコースは教職を取らなかったことで選択から外していた。

「就職は九州でするんか」

「それもまだ」

 あとは沈黙だった。左の車窓を東海道線の電車がすれ違い、東海道線をくぐると新幹線の高架が左に現れた。梅田行の特急はトップスピードで駈けていたが、後ろから現れた新幹線が勢いよく追い抜いて赤いテールランプを見せつけるように走り去った。

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