下り坂(39)
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慈照寺に入った哲也たちは、銀閣と庭を堪能した。古都保存税を客から徴収するという問題で、清水寺が拝観をストップしていたこともあって、見られるところは貴重だった。それからバスで河原町まで移動して、梅田行の特急に乗った。他の車両がチョコレート色1色なのに対して、特急専用の車両は屋根に近い部分を白く塗り分け、座席も二人掛けのシートが景色を見やすいように窓と直角に並んでいた。
「9月に入ったら試験が地獄やなぁ」
哲也と並んで座った菊池が呟いた。彼は神戸から通っていて工学部の原子力コースだった。
「ドイツ語はどうなの」
「先生が厳しくてなぁ。中国語は」
「よくわからないけど、法学部は取っている者多いよ」
電車は烏丸・大宮と連続して止まったが、大宮を出ると宝塚線に乗り換える十三までノンストップである。地下から地上に出てスピードが上がった。
「法学部で何を取るかは来年に決めるんだろ」
「2年の終わりにゼミの希望を決めるらしい」
「どうするんだ」
「まだ何とも」
法学部ならば公務員・民間企業と幅広く考えられた。教員というコースは教職を取らなかったことで選択から外していた。
「就職は九州でするんか」
「それもまだ」
あとは沈黙だった。左の車窓を東海道線の電車がすれ違い、東海道線をくぐると新幹線の高架が左に現れた。梅田行の特急はトップスピードで駈けていたが、後ろから現れた新幹線が勢いよく追い抜いて赤いテールランプを見せつけるように走り去った。
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