下り坂(15)
前回までの 内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください
K館との戦いが始まった。福原は面で先行したが、小手を取り返されて引き分けた。次鋒は引き胴で一本勝ちした。中田は出小手を取られてから小手を取り返し、面抜き胴で逆転した。大塚は小手を取ったものの、終盤に引き胴を浴びて引き分けた。哲也はチームは勝ちが決まったんだと言い聞かせて進み出た。相手は中学では初体面だが、小学校時代に面を決められて負けた。
立ち上がった哲也は、短い気合をかけて竹刀を押さえこみながら間を詰めた。そのまま面に飛び、受け止められると鍔競り合いに入った。「分かれ」の合図があって互いに間を開けた。哲也は剣先を沈めながら間を詰めてみた。相手が誘いに乗って面に飛び出したので、剣先でCの字を書くようにして胴を切った。二本目は竹刀を払い落とされて面を打たれたが、引き分けで逃げ切った。
決勝の相手はN少年団である。空港に近い住宅地にあって市大会で何度も優勝した強豪だった。福原は小手で一本負けしたが、次鋒は抜き胴を二本取り、中田は引き分けでつないだ。大塚は試合中盤に小手を取って一本勝ちを納めた。哲也は「負けないぞ」と自分に言い聞かせた。今度の相手は初めてである。ずんぐりした体形で小手や胴が得意そうだった。
相手は二本勝ちを意識しすぎていた。いきなり小手に来たのを哲也は小手面に返した。旗が二本上がって、一人だけ振っていた。二本目は哲也が鍔迫り合いから引き胴を打ったのを追いかけられて面を取られた。最後は哲也が竹刀を左肩にかついで相手の手元が上がったのを胴に切り込んで決めた。これは小手を打たれるリスクもあったが乾坤一擲の賭けである。
表彰式では哲也が司令から優勝の旗を受け取った。重いので、福原の父の車で持ち帰ることになった。他にはトロフィーや賞状、記念品などでかなりの荷物である。賞状は防具袋に入れたが、記念品は小脇に抱えて運んだ。
「これは重いとは感じないだろ」
駐屯地の門を出てから哲也は中田に言った。彼は「野球のときはこういうのなかったよ」と応えた。
| 固定リンク
コメント