下り坂(26)
前回までの 内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください
クラスマッチは剣道の審判からだった。哲也が担当するのは中田が2組の大将、三浦が6組の大将として臨む試合である。1組から5組までは男女半々だが、6組から10組は男だけだった。哲也は10組にいて中学時代とは同じ環境である。柔剣道場は校舎の北西端にあって新幹線の高架に近かった。その東隣は25メートルプールで、さらに隣が講堂だった。
講堂では入学したばかりの頃に応援練習があり、校歌や応援歌などを仕込まれた。覚えていない者がいるということで全員が正座させられ、右腕を20分近く上げたままにさせられたり、中にはステージの上に上げられて腕立て伏せをさせられた者もいた。それは応援団がやるのだが、後ろの席で2・三年生が見ると言うサディスティックな通過儀礼であった。
審判は原則二人だが、他競技との関係で1人ということもあった。2組対6組は哲也が主審で2月に初段を取ったばかりの辻が副審になった。K高校では男子が柔道または剣道を選択することになっていて、哲也はもちろん剣道を撰んだが、体操服の上に垂れと胴を一体化した防具というのは違和感があった。体操服の下は短パンで足は丸見えである。三浦は剣道選択だが、中田は柔道にしていた。
先鋒同士の戦いは中学時代の経験者同士の戦いで、6組が小手で一本勝ちした。旗を上げた瞬間、応援に来ていた数人の2組の女子が「やだぁ」と声を上げた。次は2組がN中出身だった。面を受け止められてすかさず打った引き胴は哲也の感覚では有効ではなかったが、辻が旗を上げたので、哲也も認めた。女子軍団が歓声を上げた。2本目は6組が面で反撃したところを哲也も感心する抜き胴で決まった。女子たちは再び黄色い声をあげた。
中堅は6組が面と小手で勝利した。記録用の黒板に「オ」と書き入れた者が頭をひっぱたかれていた。副将は2組が面一本で勝ち、勝者数も本数も同じで大将戦となった。中田は1年ぶりの剣道のはずだが、事前の練習をしていた。彼が借りた竹刀の柄革には、J航空の赤い鶴丸マークが書き込まれていたが、汗でにじんだ状態である。応援団で鍛えていたのもあって三浦は警戒気味だった。面と小手を防ごうとして逆胴が空いたのを切りこんで辻が旗を上げ、哲也も上げた。
「本当によかったのかぁ」
終わってから中田が哲也に言った。「まあ、構えを崩したところだったから」と哲也は言葉を濁すように答えた。次峰の一本目の胴は微妙という指摘もしっかり受けた。
| 固定リンク
コメント