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2012年11月26日 (月)

下り坂(11)

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 剣道形は5組ずつ行われた。哲也はトレーナー役の打太刀側である。今度は待つ時間が長くなった。間違えると一回だけやり直しが認められるが、二回やると不合格である。相手がちゃんと覚えているかどうかは賭けだった。それでも打太刀のほうがリードする立場なので気分的には楽である。

 互いに向き合って木刀を合わせ、九歩の間合いに離れた。審査員の席のすぐ前というのはさすがに緊張した。哲也は左足を前に出して振りかぶり、三歩進むと「ヤー」の掛け声で振り下ろした。相手の木刀が頭すれすれで止まると一歩下がり、もう一歩下がると相手は左足を前に出して振りかぶった。

 次は小手に振り降ろしたのを剣先を下げてかわし、小手に来るというものだった。隣がやり直しを言われて心臓が高鳴った。小手ではなく、相手の顔面に木刀を当てていたのが原因で、二回目もやってしまったのは駄目である。最後は下段で三歩進み、突きに対して突き返すものだった。これは足運びが難しく、哲也は家で素振りするときに何度も一人でそれぞれの役割をシミュレートした。

 最終結果が発表されたのは午後三時を過ぎてからである。案の定、形で二度間違えた者は消されていた。無事に終わった解放感と長い間の目標だった「初段合格」の達成感で哲也は軽やかな足取りで観覧席への階段を登った。大塚も合格である。

「ああ、防具が重たい」

 体育館を出るとき、中田はおどけたように言った。「冬がんばろう」と応じたのは平田である。電停へと下る坂道は審査帰りの者でいっぱいである。車で迎えに来てもらったグループもいて、路上には何台かトランクを開けて道具を積み込んでいた。平田は西に向かう電車を待ち、哲也たち三人は東行きの停留所に並んだ。

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