下り坂(12)
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三寒四温のリズムが週末に「寒」というパターンになっていた。3月最初の日曜日、陸上自衛隊の駐屯地で行われる「司令旗争奪戦」にN中は2チームで出場することになった。これは小中学生の団体戦だが、中学は哲也たち以外は学校ではなく道場という参加である。1年の時は初戦敗退だった。
駐屯地は10月の終わりまで走っていた路面電車の終点のところに入り口があった。駐屯地の西には市立大学かあり、東は刑務所である。路面電車は市の南部に作られた住宅地と中心部を結ぶモノレール工事のために廃止されることとなった。哲也は電車の代行バスで駐屯地まで来た。
正門前でチームの仲間と待ち合わせ、揃ってから警備の自衛官に帽子を取って挨拶して中に入った。どういうわけか平田は制服を着ずに来ていた。哲也はAチームの大将で、彼はBチームの大将である。2月の初段審査では、彼と中田、斎藤の3人が有段者になった。
体育館で着替えようとしたとき、哲也は猛烈な便意に襲われた。「トイレ」と示された張り紙の矢印は、2階建ての古くて白い建物に向かっていた。寒々としたトイレはもしかしたら陸軍時代のものかもしれないという感じだが、さすがに水洗になっていた。一番手前の「個室」に入ってベルトを緩め、しゃがみこむと肛門が裂けそうな感じがした。
下痢じゃなかったな、と哲也は安堵した。紙はほとんど汚れず、ふと下を見ると便器の水たまりの後ろから前にかけて一直線に太さが4センチくらいの茶色い棒状の便が横たわっていた。冷たい空気のせいか便からは湯気が立ち上った。隣に誰かが入って「お前うんこかぁ」と小学生らしい声がした。仕切りの下には隙間があって覗こうと思えば覗けた。
哲也はレバーを踏んだが、水の勢いが弱すぎた。びくともしない便をどうするか困ったが、隣はまだ出る気配がなく、小のほうに誰も来ていないのを見計らって外に出た。手を洗っていると5・6年生の者が入ってきて「うわっ」と叫んでさらに奥の「個室」に入りなおした。
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