下り坂(10)
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「剣道を始めた理由って どう書いたらいいんだろ」
防具袋から学科問題と解答例を取り出した中田が呟いた。
「そりゃ、うちはカワイイ女の子がいたので入部とは書けないもんなぁ。体育の授業でやっていたからとするのが当たり障りないだろ」
哲也が答えると「剣道ってどうしてオリンピックにはないのかな」と平田が口をはさんだ。
「オリンピックだったら、有効打突の判定が難しいんじゃないの」
大塚が応じた。学科には有効打突の基準として「充実した気勢、適正な姿勢で、定められた打突部位を刃筋正しく打突し、残心のあるもの」という一文が括弧つきで記されていた。
「モスクワをボイコットすることになって、柔道の選手が何のために練習してきたのかと言ってたなぁ。そういう目標って剣道にはないよね」
平田がそう言うと大塚は「だけど、剣道自体が変になるんじゃないの。何も世界中に広げるということにこだわる必要はないと思う」と答えた。それは哲也も同感だった。
午後一時を過ぎて実技の審査が終わった。アリーナで審査員長からの講評を受け、実技合格者が発表された。紙に書かれた番号で、不合格の者は上に線がひかれた。哲也の番号はそのままで、273には線がひかれた。5人のうち一人または2人が落とされていた。
学科のために筆記用具を取りに戻ると、中田が着替え始めていた。大塚は合格だったと平田が告げた。学科はアリーナの床に這いつくばって回答を書いた。問題は剣道を始めた理由と間合いについてである。これが終わると最後は剣道形だった。10本のうち、初段は最初の3本が課せられた。
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