下り坂(8)
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空には秋の気配が漂っていたが、地上は残暑が続いていた。哲也を乗せた路面電車は西に向かって進んだ。中二になってから校舎の屋上に武道場が増築され、クラブは毎日行うことが可能になった。夏休み前、哲也は団体のメンバーに大塚と共に入っていた。中体連の試合は区予選のリーグで終わった。哲也は1試合に出て面返し胴で一本勝ちだった。新チームでは哲也がキャプテンに指名された。
吊り革が網棚に規則正しい音をたててぶつかった。車内には哲也の他にも防具袋と木刀をくくりつけた竹刀袋を持つ者が何人もいた。夏休み最後の日曜日、初段の審査がS製鉄の体育館で行われることになっていた。電車が坂を下って中央町の電停に着くとみんな一斉に降車口に向かった。
体育館は電車通りから坂を登った場所である。手前には野球場があり、外野のスタンドに沿って道が上りになっていた。体育館の前には開館を待つ受審者でごった返していた。哲也の他に受けるのは大塚と中田である。斎藤・平田・小松は一級を取っていなかったので冬に挑戦だった。
何とか合流して観覧席でまとまって着替えた。アリーナには6つのコートが作られ、4つが初段専用 残り2つが2段と3段用である。初段は520人が申し込み、2段は250人、3段は30人だった。哲也に割り当てられた番号は「272」で、垂れにチョークで書き込まれた。ここは第三コートで開始されるとすぐに順番が来るところである。
開会式では番号順に整列した。大塚が「168」で中田は「43」である。かなり年を取った人もいて500番以上をつけられていた。2段は主に高校生で、3段は大学生か一般となっていた。「271」は哲也より少し背が高く、「273」は少し背が低くて小太りだった。みんな胴は黒にしていたが、「273」は梨色のものを着けていた。
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