下り坂(14)
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試合数が多いので、1回戦で勝つと次は午後まで待たなければならなかった。昼休みには駐屯地内を歩く者もいて「ゼロ戦があるぞぉ」「えっ、ここは陸だから隼じゃないの」という会話もあった。ベスト8を賭けた戦いの相手はD道場である。次鋒に入っているのはN中の者だった。剣道部には入らずに小学校から稽古しているところでやっていた。剣道の授業で相手をしてみるとレギュラーに入る力は十分あると哲也は判断した。
福原はかなり苦戦したものの、互いに有効打のない引き分けでつないだ。斎藤は面に出たところを見事な抜き胴を決められた。相手がもう一本胴に来ようとした手首に斎藤が一撃を加えて追いついた。中田もいろいろな技を仕掛けて行ったが、ここも互いにポイントのないまま引き分けた。大塚は面で先行したが、鍔競り合いから引き小手を打たれて引き分けに持ち込まれた。
哲也は深呼吸をして試合場の真ん中に進み出た。相手は哲也より背が10センチくらい高かった。学年は中一だが、秋の大会では上位に入っていた。哲也は剣先を相手の中心から外さないように気を付けた。相手は足を前後左右に動かして守りと攻めを交互に展開した。変に打っていくと危ないので、哲也もまた入ったり出たりを繰り返した。相手の左わきが3度目に空いたとき、哲也は思い切って切り込んだ。
誰かが旗を上げた気配はあったか゜、他の2人が旗を振って無効と宣言した。試合が終盤にきた頃、哲也は左肩に竹刀をかつぐようにして面に行くと見せた。相手がチャンスと思って伸びあがるようにして面打ちに来たのを哲也は右斜め前に踏み出して胴を抜いた。甲高い音が館内にこだまして旗が3つ一斉に上がった。次の相手は剣道連盟のAチームである。
福原が小手を取って一本勝ち、斎藤は面を取ったものの、鍔迫り合いから引き胴を取られて引き分け、中田と大塚も引き分けで回って来た。哲也はS中で大将を張る相手に慎重な試合運びをして、後半に面抜き胴を2本決めた。準決勝の相手はK館に決まった。ここもY中という市大会常連のところの選手が主力だった。斎藤が控えの一年生と交代した。
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