下り坂(5)
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試合は男子から始まった。一番最初に順番が来たのは中田である。哲也は「自分からドンドン攻めて」と言いながら背中に赤たすきを結んだ。彼は先に出ばなの小手を取られたが、二本目は思い切って飛び込んだ面で追いついた。最後は攻められて手元が浮いたところを胴に飛びこまれた。
大塚は危なげなく面と小手を立て続けに奪った。その前に佐藤が勝ち残って次は大塚との対戦である。斎藤も哲也のアドバイス通りに自分から攻撃していたが、相手に防御され続け、最後は面返し胴で敗退した。平田は相手が面に来たら胴を打つという戦法を見て実行したが、振り向いたところに面を打たれて負けた。そのとき審判の一人は胴に旗を上げていたが、他の2人が面を認めたのに合わせた。
哲也の番が来た。相手はF中の選手である。見た感じでは中学から始めたと思った哲也はまず面を攻撃した。受け止められるとすかさず胴に竹刀を叩き込んで間を開いた。「胴あり」という宣告が耳に入った。相手は取り返そうと左右に展開し、面を狙ってきた。哲也は左斜め前に踏み出して小手を押さえた。
「今日は冴えてるなぁ」
哲也の背中に結ばれた白たすきを外しながら大塚が言った。ほぼ同時に別のコートで小松の試合が始まった。彼は面二本をあっと言う間に奪われていた。
二回戦は昼休みのあとからということになり、哲也たちは固まって弁当を広げた。外からは路面電車の踏切の音や新幹線がスプレーを噴射するような音を立てて通り過ぎるのが聞こえた。
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