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2012年11月12日 (月)

下り坂

小説を入れることにしました 昭和五十四年に中学生になった主人公 岡部哲也 K高校 O大学法学部 という具合に昭和最後の十年を

 足立山の稜線から太陽が顔を出した。森林公園のあちこちから蝉の鳴き声が沸き起こった。哲也は淡いグレーの夏の制服に 補助鞄を肩にかけて家を出た。夏休み直前に熊本県の菊池で二泊三日の校外学習が行われることになっていた。

 哲也が入ったのは私立のN中学である。家からは千五百メートルほど離れていた。学区となっているのはK中学で、こちらは三百メートルの場所だった。母校のA小学校の前からは長い下り坂になった。小学校に入った頃から剣道をやっている哲也は、学校で迷わず剣道部に入った。週三回しかクラブはなかったが、帰宅する時はこの坂を逆に登るのがきつく感じた。

 しばらく平坦な道になり、また緩やかな下り坂を降りると、N中の校舎である。四階建てで一年生は四階、学年が上がると一つずつ下の階に移った。校舎は系列の女子高の敷地内にあり、グランドや体育館は共用である。登校すると制服から校内用の白い作業着のような服に着替えることになっていたが、この日はそのままでよかった。男子校なので着替えるのは廊下に並んだロッカーの前である。

 教室は校舎の北を通る道路に面していた。反対側には幼稚園があり、中には双眼鏡を持ってきて可愛い女の子がいないか探している者までいた。デパートや市役所がある小倉の中心部の向こうには赤と白に塗り分けられた煙突が何本も並び、白い煙を青空に溶かし込んだ。

 

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