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2012年11月20日 (火)

下り坂(6)

前回までの 内容は「文化・芸術」のカテゴリーでご覧ください

 二回戦が始まる頃、哲也と大塚以外は制服に着替えていた。中田と平田が女子のコートのほうに行っているのは怪しからんなと思いながら哲也は大塚の背に赤たすきを着けた。大塚は佐藤を一本も取られずにメンと小手で倒した。

 哲也の相手はA中のゼッケンにワインカラーに金色の校章が入った胴を着けていた。哲也は注意深く相手の動きを見極め、小手を抜いた面で先行した。取り返そうと面に来たのを胴に抜いて乾いた音が体育館にこだました。審判の旗が一斉に上がった。

 ベスト16を決める戦いで、大塚はM中の選手に敗退した。延長に入る直前に勝負をかけて小手を取られた。哲也のほうはS中の選手に小手から胴へ切り込む技で一本勝ちを納めた。

 ベスト8を賭ける相手は、佐藤と同じK中である。互いに面が相打ちになったり、鍔迫り合いが続いて「分かれ」の号令がかけられたりした。試合の終わり近くに哲也は小手・メンの連続から胴を叩いて離れ、それが一本になった。2本目は相手が面を取りに来たのを受け止めて胴に返すとまた旗が上がった。

 準々決勝は、I中の選手と当たった。彼もワインカラーに金色の校章入りの胴である。立ち上がりにいきなり面を狙ってきたのを胴に抜いたら審判の旗が一斉に上がった。大塚たちが驚きの声と拍手をするのが耳に入った。相手の反撃をしのいで、終盤に再び面へ来たのを胴に返した。

「今日は 胴の調子いいね」

 大塚が哲也の背中のたすきを替えながら言った。哲也は銀色の仮面の中で苦笑いを浮かべた。ベスト4に来たのは初めてだった。あと2つ勝てば優勝と思いながらも次に当たる者に集中しなければと自分に言い聞かせた。中田と平田がまた女子のコートに歩み寄ったのはどうでもよかった。

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